第三次アニメブームと言うな!

MAG・ネット2012年4月号*1に於ける氷川竜介氏の解説を観て暗澹となった。氷川氏は此処で”超世代アニメ”なるものの代表を「70年代の宇宙戦艦ヤマト、80年代の機動戦士ガンダム、90年代の新世紀エヴァンゲリオン」と挙げ、その条件は「その1・十代の少年が主人公、その2・過去の名作がベースに、その3・物語に不完全な部分が残されている(続編・リメイクが作りやすい)」等と述べたのだ。

宇野常寛は複数の媒体で何度も「70年代の宇宙戦艦ヤマトによる第一次アニメブーム、80年代の機動戦士ガンダムによる第二次アニメブーム、90年代の新世紀エヴァンゲリオンによる第三次アニメブーム」と唱えており前島賢なども好んで”第三次アニメブーム”と唱えている。この”ゼロ年代の批評”の論者達の、こいつらの用語でいう「ディケイド*2」の区切りが先にあり事実関係などそれに曲げて当て嵌めれば良い、という振る舞いについては藤津亮太が既に的確な批判をしている*3が、津堅信之id:tsugata氏は何故かこれに否定的に言及する*4一方で、宇野式のディケイド当て嵌め区分には好意的に言及*5している。

筆者が90年代を「第二次アニメブーム」と呼称する言説に初めて触れたのは、96〜7年頃に同人誌「この本を見ろ!」の「第二次アニメブームが始まった」という記事で要旨は「思春期・青年向けのアニメは特にテレビでは永らく逼塞していた。がセーラームーンを経てエヴァンゲリオンに至り続々成功作が現れており、第二次アニメブームが始まったと考えるべきだ」。あくまで昭和五十年代のアニメブームの「再生」という意味で、つまり固有名詞としての「アニメブーム」を踏まえて「第二次」と呼称されている。しかし津堅氏は、特殊撮影技術や着ぐるみを併用した劇映画や人形劇と渾然一体となっていることから見ても「テレビまんがブーム」としか云い様がない60年代のブーム*6を、何故か此等を排除しセルアニメーション「だけ」で「第一次アニメブーム」と称し、昭和五十年代と90年代の各々のブームを「第二次」「第三次」に繰り下げている。

「アニメブーム」という言葉は固有名詞なのです、思春期・青年層の受け手と彼等に向けられた作品群が初めて前景化した昭和五十年代の!だから本当は90年代を第二次ということすら望ましくなく、三期各々のブームを各々の固有名詞で呼ばなければいけない、小川びいが云うようにゼロ年代と言っている時点で日本社会の現象を語る資格は無いのです。昭和という年号が十年紀に於いて西暦のdecadと対称でありしかも終戦*7と一致する以上、昭和の十年紀で時代を区分する視点は欠かせない*8筈なのに、こいつらは「ディケイド」「ディケイド」「ゼロ年代」と唱え「70年代のヤマトによる第一次アニメブーム80年代のガンダムによる第二次アニメブーム90年代のエヴァによる第三次アニメブーム」と唱えている、それはおかしいと指摘されたら「いいえ私たちは精華大学の津堅信之准教授の区分に基づいて第三次アニメブームを論じているんです」と嘘吹き、去ったらまた「70年代の第一次アニメブーム80年代の第二次アニメブーム90年代の第三次アニメブーム」と唱え始めるのではないでしょうか。氷川竜介はこの詐欺集団に阿って口を曲げ、そして津堅信之は学知の名の下に、詐欺に竿を差している。

*1:http://www.nhk.or.jp/magnet/playback/2012_04.html

*2:西暦の十年紀を意味するdecadに由来

*3:アニメ!アニメ!内の「藤津亮太のテレビとアニメの時代 第1回最初に倒れたドミノの1枚へ」http://animeanime.jp/article/2008/11/21/3934.html

*4:アニメ学 isbn:4757142706、30-31p

*5:日本アニメーションの力―85年の歴史を貫く2つの軸 isbn:4757101236、150-151p

*6:例えば氷川『ロトさんの本 EX-1アニメビジネス48年の軌跡』参照

*7:敗戦〜降伏〜占領〜戦後改革

*8:宮本大人「昭和50年代のマンガ批評、その仕事と場所」http://ci.nii.ac.jp/naid/40004853260外山恒一『青いムーブメント―まったく新しい80年代史』isbn:4779113369